「はっはっは、それは災難だったな」
「もう、ユウイチさん! 笑い事じゃないですよ。モンスターの大群から逃げるの大変だったんですよ」
 辛くもモンスターの大群から逃げ切ることに成功したシオリ達一行は、既にアケから戻って来ていたユウイチ達一行と宿泊先のホテルで合流したのだった。
「しかし、ジュン。人の忠告は素直に聞くものだぞ? 第一金なんてのは楽して稼ぐものじゃなくって、汗水垂らして働き、その対価として得られるものだぜ」
「うう、今のお前に言われると返す言葉がない……」
 現にユウイチは、折角グレートアーチに遊びに来たにも関わらず、アケの方にいい材木屋があるという情報を仕入れてや否や、遊ぶことを忘れてアケへと向かったのだった。
 そう地道に汗水垂らして働き利益を上げようとしているユウイチを前にすると、ジュンは人の忠告を無視してまでお宝捜しに夢中になった自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
「へぇ、お前さん、若い割にはなかなか良いこと言うじゃないの」
 若い割には堅実な考え方を持っているユウイチに、アッテンボローは軽く賞賛の声をかけたのだった。
「ありがとうございます。ところであなたは?」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はかの海賊アッテンボローだ」
「へぇ〜貴方があの」
「自己紹介も済んだ所で早速頼みたいことがあるんだが、アンタの会社で俺の航海日誌を出版して見ないか?」
 ジュン達との会話からユウイチが商売人であることを察したアッテンボローは、早速とばかりにユウイチに商売の話を持ち掛けたのだった。
「海賊アッテンボローの航海日誌ですか、面白そうですね。実は今我が商会は出版に力を入れようと思っている所でして、航海日誌は商会の目玉出版物の一つとして十分過ぎる利益を上げられそうですね」
「おっ、なかなか分かるじゃないの。実は今自分で売っている航海日誌は自費出版で、その上なかなか売れなくて困っていた所だったんだよ。出版費を商会で負担してもらえるだけでなく、全世界に販売されるようになれば、こちらとしても願ったり叶ったりだ。
 さて、そうと決まれば善は急げだ。早くお前さんの商会に行って出版の準備を始めようぜ」
「えっ、それは構わないのですが……」
 アッテンボローの本を早く出版したいというのはユウイチも同じ気持ちだった。しかしユウイチは今すぐハイネセンへ戻ることには躊躇いを感じていた。
 本来、グレートアーチにはアユの休養を兼ねて来た筈なのに、そんなに遊ばない内にこんな所にまで来て仕事を行ってしまった。そのことを少なからず後ろめたさを感じていたユウイチは、アケから戻ったら思う存分アユの羽を伸ばさせてあげたいと思っていた。
 それだけに、遊ぶ間なくハイネセンに帰るのはアユに申し訳なく、アッテンボローに対して返事をすることが出来なかったのだった。
「ユウイチ君。ボクのことは気にしなくていいよ。ボクはもう十分に遊んだし、早く商会を建て直したい気持ちはボクも同じだし」
「アユ……、済まない。マリーンドルフ商会が昔の勢いを取り戻したなら、また遊びに来ような」
「うん!」
 こうしてアユの同意も得たユウイチは、心置きなくハイネセンへ戻る腹を決めたのだった。
「あの、ユウイチさん。私達はもう少しだけ遊んで行きたいのですが……」
「ああ、それは構わないよ。シオリやジュン達は気が済むまで遊んで行ってくれ。じゃあ俺は帰る準備しなくちゃならないからこれで」
 そう言い残し、ユウイチ、アユ、ナユキ、そしてアッテンボローの4人はシオリ達の前を後にしたのだった。
「いいの、シオリ? ユウイチ君にあんな嘘を吐いて」
 カオリには分かっていた。シオリは遊びたいからグレートアーチに残るのではなく、ジャングルの奥底に構える火炎長アウナスを倒すためにまだ帰るわけにはいかないのだと。
「うん……。ユウイチさんにはユウイチさんのやらなきゃならないことがあるから、迷惑をかけるわけにはいかない。これは私がやらなきゃならない運命なんだから」
 ユウイチさんにはユウイチさんの、私には私の進まなきゃならない道がある。だから私の進む道にユウイチさんを巻き込む訳にはいかない。
 そう思うシオリの目には、自分の使命を受け入れ、アウナスに挑もうとする確かな決意の灯火が輝いていたのだった。



SaGa−33「Fate/stay night」


「あははーっ、こんな所で会えるなんて本当に奇遇ですねーー」
「いや何、黄京に帰る前に知人の所に寄り、その足ついでにリヒテンラーデの武術大会を見学しただけだ」
 サユリは武術大会の会場を後にする際、偶然柳也と再会を果たし、以後行動を共にしオーディンへと向かっているのだった。
「しかし、サユリ殿も凄かったが、何よりマイ殿のご活躍が素晴らしかった。何せ、女手一つで事実上の全勝を成し遂げたのだからな」
「……」
 柳也の誉め言葉にマイは無言のまま顔を赤らめたのだった。イーストガード柳也の腕をサユリから聞いていたマイは、同じ剣士として少なからず柳也のことを尊敬していたのだった。その柳也に誉められたので、マイは何だか妙に恥ずかしかった。
「しかし裏葉、まさかお前まで付いて来るとは思わなかったぞ」
「あらあら、柳也殿。旅は道連れというもの。久々にお会いしたのですから共に旅を行うのも一興ですわ」
 柳也が会いに来たという知人は裏葉だった。裏葉は柳也が黄京に帰るという話を聞き、折角だからと自分も共に黄京へ帰ることとしたのだった。
 そうこうしている内に、一行はオーディンに着き、その足でオーベルシュタインの居城へと向かったのだった。
「お久し振りでございます、オーベルシュタイン伯爵」
「これは、サユリ姫。相変わらずお美しいですな」
 久々に訪れたサユリを、オーベルシュタインは快く迎えたのだった。
「あははーっ、伯爵閣下は相変わらずお世辞がお上手ですねーー」
「サユリ姫のリヒテンラーデ総合武術大会でのご活躍は、既に私の耳に入っております。時に、マイ様以外のお連れの方は初見なのだが、出来ればご紹介願いたいものですな」
「これは失礼。私はイーストガードの柳也だ」
「私は柳也殿の知人で、フリーメイジの裏葉と申します」
 オーベルシュタインに自己紹介をするようお願いされた柳也と裏葉は、快くオーベルシュタインに自らの名を語ったのだった。
「ほう、あなたがあの柳也殿でしたか。サユリ姫がブランシュヴァイク男爵に拉致された際の武勇伝は私の耳にも入っております」
「それは光栄です。時にオーベルシュタイン伯爵、閣下がかの聖王遺物聖杯をお持ちだという話を耳にしたのですが?」
 聖王遺物聖杯。それは聖王の血が注がれたと言われる伝説の聖なる杯で、邪悪なる者共を一瞬で消し去ると伝わる杯である。
「確かに持っておりますが、それが何か?」
「単刀直入にお頼み申す。その聖杯を私に譲ってもらいたい」
「ほう」
「今アビスゲートは確実に開き始め、世界はアビスの空気に染まりつつある。事態は一刻を争うのです。故に一つでも多く聖王遺物を揃え、四魔貴族を始めとしたアビスの魔物と戦える体勢を整えたいのです」
「アビスの力が強まっているのは私も感じております。いいでしょう、聖杯をお譲り致しましょう」
 柳也の懇願を、オーベルシュタインはあっさりと了承したのだった。
「但し、聖杯は地下の私の部屋にあります。聖杯が欲しいのならば、自らの足で私の部屋まで来ることですな」
「伯爵のお部屋まではどう行けばいいのです?」
「簡単なことです。この部屋の私から右手に見える方の通路を進めば辿り着きます。途中いくつか部屋がございますが、基本的に一本道な為、道に迷うことはないでしょう」
 目的の部屋までの道程を訊ねるサユリに、オーベルシュタインは丁寧に道筋を教えたのだった。
「それと、私の部屋まで行くまでの通路には多数のモンスターが待ち構えております。その点はどうかお気を付けて」
「成程、ただでは譲ってくれぬということか。聖杯を手に入れるには、伯爵閣下の下した試練を乗り越える必要があるということだな」
「左様です、イーストガード殿。これから貴方達に襲い掛かるモンスターを倒せぬような者には、到底聖杯は使いこなせませんからな。では、ご無事なご到着を心からお待ちしております」
 そう言い終えると、オーベルシュタインはまるで霧にでもなったかの如く姿を消したのだった。
「あらあら、流石は吸血鬼伯爵。見事な身の隠し方でございますね」
「なかなか面白い趣向だ。氷の剣を守護せしドラゴンルーラーを倒したこの柳也、甘く見ぬことだな」
「私はマイ、魔物を討つ者。どんな魔物が襲い掛かろうと、この妖刀龍光で断ち斬るのみ!」
「あははーっ、みんなノリノリですね。乗りかかった船です。サユリも頑張りますわ!」
 こうして4人は聖王遺物聖杯を手に入れる為、オーベルシュタインの試練へと挑んで行くのだった。



「我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ! エアスラッシュ!!」
「ウリィィ!」
「はぇ、全然効いていません……」
 オーベルシュタインの部屋を目指し、宵闇に包まれた居城の奥底へと進撃する一行。襲い掛かって来たモータルゴースト共に向けサユリは朱鳥術エアスラッシュで対抗したが、軽いダメージを与えたくらいで、致命傷を与えることは叶わなかった。
「十文字斬り!!」
「退魔神剣!!」
 そんな中、マイと柳也はそれぞれの武器が繰り出す対アンデット用の技で、モータルゴースト共を葬り去ったのだった。
「はぇ〜、マイも柳也さんもすごいです……」
 本来アンデット系のモンスターは朱鳥術に弱い筈だが、襲い掛かって来たモータルゴーストには殆ど効いていなかった。流石は聖杯を勝ち取る為の試練として立ちはだかるモンスター達。聖杯を手に入れるのは容易ではないと思っていたが、自分の得意の術が通用しなかったのは、サユリにとって少なからずショックだった。
「あらあら、何だか落込みのご様子ですわね、サユリ様。何かお悩み事でも?」
「はい。この先、サユリはお役に立てるかと思うますと、不安で」
「あらあら。それなら得意の月術が有効ではない私の方がサユリ様よりお役に立ちませんわ」
「自分で言うな。しかし、サユリ様、そう気落ちする必要はないぞ。先程の敵に手を焼いたのは事実かも知れぬが、朱鳥術がアンデット系モンスターに有効なのもまた事実。エアスラッシュが効かぬならば、他の朱鳥術で対抗すれば良いだけだ」
「はぇ、でも朱鳥術で攻撃向きの術はエアスラッシュしか知らないのですよ。ファイアウォールを攻撃に応用出来る程サユリは朱鳥術を扱えませんし……」
 炎を主体とした術、ということから攻撃術のイメージが強い朱鳥術だが、一般的に知られている攻撃術は少なく、どちらかと言えば戦闘補助に長けた術であったりする。
「むう、東方にはいくつか攻撃向けの術も伝わっておるのだが。裏葉、お前からいくつか教えられぬものか?」
「ええ。構いませんわ」
「グアア〜〜!!」
「あらあら、残念ながら教えられる時間はないようですわね」
 裏葉が意気揚々にサユリに術を教えようとした矢先、ゾンビ系モンスタードラゴンゾンビ3匹が襲い掛かって来たのだった。
「ゴアア〜〜!!」
 ドラゴンゾンビの口から強力な高温ガスが放たれた!
「炎よ! 我等を守りし鉄壁となれ! ファイアウォール!!」
 だが、サユリが咄嗟に朱鳥術ファイアウォールを唱えたことにより、一行は難を逃れられたのであった。
「あらあら、お見事ですわサユリ様」
「あははーっ、攻撃に応用出来ないとはいえ、一応ファイアウォールは唱えられますので。ようやくサユリも少しはお役に立てましたね」
 防御行動とはいえ仲間の危機を回避出来たことで、サユリはすっかりいつもの元気を取り戻したのだった。
「さてさて、サユリ様もご活躍為さったことですし、そろそろ私もお役に立たせていただきますわ。月よ、その宵闇を照らす冷たき視線が如く、我に立ち向かう者に魂さえも凍らせる冷気を浴びさせたまえ! ソウルフリーズ!!」
 裏葉は冷気で敵にダメージを与える月術ソウルフリーズを唱えたのだった。
「グワワ〜〜!!」
 魂をも凍らせると言われるソウルフリーズの冷気は、ドラゴンゾンビに十分なダメージを与えたのだった。
「はぇ〜、ゾンビ系モンスターに冷気攻撃は効かなそうですけど、意外に効くもんなんですね」
「このドラゴンゾンビは、元はレッドドラゴンです。ですからゾンビ系でもそれなりのダメージを負わせられるのですよ」
「でかした裏葉。トドメは私が!」
「大地を照らす日輪よ、その聖なる力持て我を阻みし死を受け入れられぬ者共にその明光を与えん! サンシャイン!!」
 柳也がドラゴンゾンビの群れにトドメを刺そうとした刹那、サユリは太陽術サンシャインを唱えたのだった。ソウルフリーズで既に体力を削られていたドラゴンゾンビは、尽く日輪の輝きに浄化されたのだった。
「サユリ、太陽術使えたの……!?」
 今までずっとサユリに仕え続けているマイだったが、サユリが太陽術を唱えるのを見たのは初めてだった。それだけに、マイは驚きを隠せなかったのだった。
「いいえ。基本的には唱えられないわ。けど、お兄様の見よう見真似で唱えてみたのよ。まともに唱えるのは初めてだから不安だったけど、上手く唱えられて良かったわ」
「あらあら。付け焼刃の術を成功させますとは、サユリ様はなかなかの術の素質をお持ちのようですわね。そんなサユリ様に、この裏葉がとっておきの術をお教え致しますわ」
「とっておきの術?」



「随分奥まで来ましたね。伯爵のお部屋はまだでしょうか?」
 立ち向かって来るモンスターを次々に打ち倒し、城の奥へと進む一行。大分奥まで進んだが、オーベルシュタインの部屋は一向に見えて来ない。そろそろ伯爵の部屋に着いてもいい頃なのではないかと、サユリは呟いたのだった。
 ズシーン、ズシーン、ズシーン!!
「はぇ? なんでしょうこの足音は」
 そんな一行の前に、大地を唸らせる様な巨大な足音が聞こえて来たのだった。
「WRYYYYY!!」
 巨大な敵は姿を現したかと思えば、いきなり一行に向かってぶちかまして来た!
「きゃあ!」
「くっ!」
「ぬうっ!」
「ああっ!」
 不意を突かれた一行はまともな回避行動を取ることが叶わず、敵のぶちかましの直撃を受けたのだった。
「みんな、無事か!?」
「ええ、何とか。それにしても、この敵は……?」
「ゾンビ系モンスターのヤミーですわ。その力は四魔貴族にも匹敵すると言われています」
 サユリの疑問に裏葉が丁寧に答えた。
「成程、きっとコイツが最後の試練」
 裏葉の説明を聞き、恐らくこのヤミーこそが自分達に襲い掛かる最後の敵なのだと、マイは悟ったのだった。
「私は魔物を討つ者……。退魔神剣!!」
 ならば、全力を持って倒すのみ! マイは妖刀龍光にありったけの力を込め、渾身の退魔神剣を放ったのだった。
「RYUUUUU〜〜!!」
「そんなっ!? 効いていない……」
 しかし、乾坤一擲の思いで放ったマイの退魔神剣は、ヤミーに全くと言っていい程ダメージを与えられなかったのだった。
「流石は魔貴族に匹敵する力を持つ魔物か。これでは私の十文字斬りも効きそうにないな。ならば、純粋に強力な技をぶつけるのみ! 明鏡止水の心にて、悪しき敵を討つ! 無明剣!!」
 柳也は目を瞑り雑念を払い、大剣技でも最上位クラスの技、無明剣を放ったのだった!
「GYUUUUU〜〜!!」
「よし! 効いているぞ」
 柳也の放った無明剣はトドメこそ刺せなかったが、かなりのダメージを与えることが出来たのだった。
「RYUUUUU〜〜!!」
 致命傷に近いダメージを受けたヤミーは、傷を負った怒りからか、身体中からコケを発散させたのだった。
「むう、このコケは!? いかん! このコケは死人ゴケだ。みんな、コケを浴びるんじゃ……ぐぅっ!」
「柳也さん、このコケは一体、ゲホッ、はぇ、なんでしょう……いきなり身体が……」
「死人ゴケは、強力な毒を浴びさせる技ですわ。ヤミーを倒せば毒の効果は自然と消えますが、ケホッ、ケホッ。それまでは徐々に身体に毒が浸透し、最終的には死に至りますわ……」
 一行はヤミーの放った毒を回避することが叶わず、皆全身に毒が回り始め、徐々に身体の動きを奪われて行くのだった。
「それなら、速攻で倒すのみっ……。逆風の太刀!!」
 敵を倒さぬ限り、毒の苦しみからは解放されない。ならば、手早くヤミーを倒すのみ。そう思ったマイは、大剣技逆風の太刀で一気に斬り掛かって行ったのだった!
「WRYYYYIII〜〜!!」
「くぅっ……!」
 しかし、ヤミーの放ったエクトプラズムネットの直撃を食らい、マイはそのまま意識を失ってしまったのだった。
「マイ!」
「大丈夫ですわ、サユリ様。マイさんは私がムーンシャインで意識を取り戻させます。その間にサユリ様はあの術を! ヤミーが弱り切った今なら、あの術でトドメをさせる筈ですわ!」
「は、はぇ……で、でも……」



「合成術?」
「はい。二つの属性の術を合成させ、より強力な術とすることですわ。本来ならば二人で唱える術ですが、サユリ様程の実力があれば必ずお一人のお力で唱えられますわ」
「合成術ですか。正直扱い切れる自身はありませんが、これからの戦いを勝ち抜く為、ご教示願います」
「ええ。喜んで」
 裏葉がサユリに教えた術。それは朱鳥術と太陽術を合成させた術で、アンデットや悪魔系モンスターにしか効果のない特殊な術だった。
(何回も唱えようとしたけど、一度も成功させられなかった。身体が弱まっている今の状況で本当に成功させられるの……?)
 サユリはこの戦いに至るまで、何度も裏葉に教えられた合成術を唱えようとした。しかし、一度も上手く唱えられなかった。五体満足な身でさえ成功させられなかった術を、今の満身創痍の身体で成功させられるのか、サユリは不安でならなかった。
「大丈夫、サユリ……。私もアシストするから……」
「マイ! 気が付いたのね」
「うん……。私は朱鳥術も太陽術も唱えられないけど、サユリの力になることは出来る。だから、私の魔力を使って、サユリ……!」
「マイ……。分かったわ。二人でヤミーを倒しましょう!」
 意識を取り戻したマイに元気付けられたサユリは、意を決して合成術を唱える態勢に入ったのだった。
「いくよ、マイ……」
「うん……!」
 サユリとマイは互いに手を重ね合い、合成術の詠唱に入り出したのだった。
『火を守護せし朱鳥よ! 昼の世界を守護せし太陽よ! 今熱き火と太陽の灯火を合わせ持て、我等に立ちはだかる悪しき魂を持ちし者共に、灼熱の浄火を与えさせたまえ! セイントファイヤ!!』
「GYUAAAAA〜〜!!」
 サユリとマイが放った朱鳥と太陽の合成術セイントファイヤの聖なる炎は、ヤミーの巨大な身体を完全に焼き払ったのだった。
「や、やりました……」
 ドサッ!
 ヤミーを何とか倒すことに成功したサユリは、術を上手く唱えられた嬉しさも重なり身体全体の緊張感が解れ、その場に倒れ込んでしまったのだった。
「サユリ、よく頑張った……。今はゆっくり休んで。後は私が背負って行くから……」
 マイは倒れ込んだサユリを優しく己の背に乗せ歩き始めた。こうして一行は強敵ヤミーを見事打ち倒し、また一歩聖杯が安置させてるオーベルシュタインの部屋に近付いたのだった。


…To Be Continued


※後書き

 え〜、今回のタイトル、深い意味はありません(笑)。「聖杯を巡り吸血鬼の挑戦を受ける」という、何となく型月なノリの話だからと、某ゲームのタイトルをまんま付けたまでです(爆)。
 さて、久々に裏葉さんが登場し、戦闘にも加わった訳ですが、33話にしてようやく月術が登場しました。この術、原作ですと覚えているキャラが少なくて、それ故今まで登場していませんでした。
 しかし、自分でいうのも何ですが、最近展開がマンネリ化して来ましたね。強敵が現る→強い技を閃く又は強力な術を唱えて勝利、という感じに(笑)。まあ、そのマンネリがゲームっぽいと言えばゲームっぽいノリかもしれませんが、もう少し展開に変化を付けられるよう頑張っていきたいものです。


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